2006年12月25日

魔法の弓

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昨日、知人の焼香に行ってきました。
その帰り道、偶然、葬儀場での出棺に出くわしました。
幼い兄弟の肩を抱き、父親がうなだれています。
上の子は少しべそをかき、下の子は不思議そうにとなりの父親を見上げているのです。
その光景がいつまでも心に残ってしまい、帰宅してから物語を書いてみました。
最初で最後の童話かも知れません。(童話っぽい作文かな?わーい(嬉しい顔)


魔法の弓

お坊さんの長いおきょうが終わり、いよいよ見送りのときがきました。
病気で死んだお母さんは、白い布をかけた箱に入ったまま、黒い自動車に乗せられるところです。屋根には金色の立派な飾りがついています。 3歳の拓海と9歳の陽介は、お父さんと手をつなぎ、その大きく長い箱を見ています。

駐車場横のケヤキの木からは、黄色の葉っぱが風に吹かれて、次々と舞い降りてきます。お父さんの靴のうえに葉っぱが乗っています。拓海の頭の上にも、1枚落ちてきました。空を見上げると今にも雨が降り出しそう。寒い12月の午後です。並んだ人たちはみんな悲しそうにハンカチで涙をふいたりしています。

その時です。1台のタクシーが門のところに停まり、若い女の人が駆け出してきました。 その人の顔をみて拓海は叫びました。

 「ママ!」

今度は女の人がビックリしたようです。

駆け寄ってきた拓海をしゃがんで抱き上げると、「拓海くん?」 
甘く、とてもいい匂いがしました。

 「うん…、でも、なぜママここにいるの?病気なおって元気になったの?」

 「ううん、わたしはね、ママじゃないの、ママの妹なの。拓海君のおばさんのメイよ。」

 「メイ? おばさん? だってママだもん。病院から帰ってきたんでしょ?」

うれしいけど、なんとなく不思議で、変な気持ちの拓海でした。


拓海のママとそっくりのメイおばさんは、ふたごの妹です。ずっとアメリカに住んでバイオリン演奏の仕事をしています。だから拓海とは初めての対面です。飛行機が遅れ、やっと今着いたのでした。 顔や姿、声まで似ているので拓海はママが戻ってきたと思ったのです。

陽介兄ちゃんが、そのあと何度も「メイおばさんとママは違う人なんだ。ママは死んでもう生き返らないんだ。」と教えても、拓海は言い張ります。

「ちがう!ママがかえってきたんだ。おんなじだもん、ママと!」

お父さんが、

「ママはこれから天国へ行くんだから、手を合わせて送ってあげよう。」といっても、

「ママはここにいるもん!」

メイおばさんにしがみついたままです。みんな困ってしまいました。


その日の夜は、メイおばさんが一緒の布団で寝てくれました。お風呂も2人で入れて拓海は嬉しそうです。

3日目の朝、メイおばさんは拓海にいいました。

「おばさんね、お仕事があって、今日アメリカに帰らなくちゃいけないの。かならず、また戻るから待っててね。」

拓海はキョトンとした顔でうなずきました。ママの写真とメイおばさんの顔を交互に眺めています。

でも、いよいよ、おばさんが家を出ようとするとしがみついて泣き出しました。お父さんが引き離そうとしますがダメです。

困ってしまったメイおばさんは、

「そうだ、拓海君に魔法の弓をあげよう。」

そういって、バイオリンケースの中から1本の弦を取り出しました。

「これはね、おばさんがアメリカに行くときに拓海君のママがくれたの。さびしいときは、これにお願いすればかならず夢で会えるからって…。こうやって胸に抱いてお願いするの。するとね、かならず夢でママに会えたわ。」

そういうとバイオリンをケースから取り出して、その弓を使って演奏を始めました。

「あ、ママの曲だ!」

拓海と陽介が一緒に叫びました。ピアノが好きだったママがいつも2人に弾いてくれたブラームスの子守唄です。ゆったりと、あたたかいバイオリンの音色が家中に広がってゆきます。

拓海はしがみついていた手を離し、その弓の動く様子を不思議そうに見上げています。

弾き終わるとおばさんは、その弓を拓海の手ににぎらせていいました。

「ママに会わせて下さい、そうお願いしてから眠るのよ。きっと会えるから。やってみてね。」

こっくりうなずく拓海の頭をなでて、メイおばさんは出て行きました。


夜、ベッドの上で拓海は教えられたとおり、魔法の弓を両手ではさみ、「ママに会わせて下さい。」と、3回となえました。

その夜、夢の中にママが現れました。

「この弓があれば毎日でも会えるから、おばさんを困らせないでね。メイおばさんはママとそっくりだけど、ママとおんなじ匂いしてた?」

拓海は夢の中でいっしょうけんめい考えていました。

「そういえば、メイおばさんは甘いにおいがしてた。ママはいつも病院のにおいだった。どっちも好きだけど、やっぱりぼくはママのにおいがいちばんすき!」

「ママと夢で会おうね。それならさびしくないでしょ。」

そういうとママは拓海を優しく抱きしめてあの子守唄をうたってくれました。


Produced by かもめ針灸治療室






posted by かもめ at 09:53| ☁| Comment(3) | TrackBack(0) | エッセイ・日々の雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
綺麗な童話ですね・・前に開いた「時葬式の話」??なので怖くて閉めてしまいました・・今見て素晴らしい童話に驚いています・・此れを最後といわずにまたどしどし書いてくださいね・・希望としては「前書き」よりこの場合は「あとがき」にしていただいたらよかったように思えます・・無くても良いとも思います・・素晴らしい童話を有り難う・・ちなみに・でんちゃんは二卵性の双子です・・そっくりではありません普通の兄弟という感じです。応援のポチ。
Posted by でんどう三輪車 at 2006年12月27日 09:43
僭越ですが・・「駐車場の・・」の文を最初にして「お坊さん・・」の書き出しの所を「駐車場の・・」の文の後にしたら如何でしょうか・・そのほうが良いようにでんちゃんは思います・・いずれにしても傑作ですね。
Posted by でんどう三輪車 at 2006年12月27日 09:50
いつもありがとうございます。
褒めていただき、とてもうれしいです。^^)
実は私も4歳の時、母が病気で亡くなりました。
その子と自分が重なって見えたのです。
いろいろ文章のアドバイスまでいただき、ありがとうございます。
アドバイス通りに変えて読んでみると、なるほどスムースな感じがします。
勝手に人生の師匠と仰いでおりましたが、これからは文章の師匠にもなってください。(笑
Posted by かもめ at 2006年12月27日 22:09
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