あと数ヶ月で定年退職を迎える矢先だった。
奥様の治療で送り迎えをしてくれていた頃、
「定年後はあちこちへ旅行したいなぁ。二人で行くんだから女房の体、
しっかりお願いしますよ。ともに健康でなきゃ行けないからね。」
と、笑いながらお茶をおいしそうに飲むやさしい人だった。
昨年、久しぶりに治療に見えた奥様は、心身疲れきっていた。
手術により一命は取り止めたが、重い障害が残り車椅子での
生活を送っているという。
ご主人のショックは大きく、イライラが日を追って増してきたのだという。
入院中はさほどでなかったが、自宅に帰ってからは
はばかることなく、妻に苛立ちをぶつけてくるようになった。
「俺が何か悪いことをしたのか!どうしてこんな体に、どうして!」
大声を出し、物を投げ、暴れる。
「この先、ずっと介護の人生が続くと思うと憂うつになります。
主人も辛いでしょうが、私もつらい。 なにより、彼の人格が変わってしまったことが一番ショックなんです。」
彼女はそういって涙を流した。
なぐさめの言葉が思い浮かばなかった。
そのご夫婦にきのう偶然出会った。
「これから、病院なんです。」
会釈をしながら彼女は案外元気そうだった。
ご主人が私をチラリとみた。
私はあいさつの言葉をかけたが…、彼は横を向いてしまった。
以前の彼ではなかった。
私はこころが痛んだ。
しかし、二人の受けたこころの傷に比べれば…。
重い気持ちで、去ってゆく車椅子を見送った。
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本人も周りも切ないですね。