2006年03月18日

こころの傷

一昨年、知人が脳梗塞で倒れた。

あと数ヶ月で定年退職を迎える矢先だった。

奥様の治療で送り迎えをしてくれていた頃、

「定年後はあちこちへ旅行したいなぁ。二人で行くんだから女房の体、
しっかりお願いしますよ。ともに健康でなきゃ行けないからね。」

と、笑いながらお茶をおいしそうに飲むやさしい人だった。



昨年、久しぶりに治療に見えた奥様は、心身疲れきっていた。

手術により一命は取り止めたが、重い障害が残り車椅子での
生活を送っているという。

ご主人のショックは大きく、イライラが日を追って増してきたのだという。

入院中はさほどでなかったが、自宅に帰ってからは
はばかることなく、妻に苛立ちをぶつけてくるようになった。


「俺が何か悪いことをしたのか!どうしてこんな体に、どうして!」 

大声を出し、物を投げ、暴れる。


「この先、ずっと介護の人生が続くと思うと憂うつになります。
主人も辛いでしょうが、私もつらい。 なにより、彼の人格が変わってしまったことが一番ショックなんです。」

彼女はそういって涙を流した。

なぐさめの言葉が思い浮かばなかった。


そのご夫婦にきのう偶然出会った。

「これから、病院なんです。」

会釈をしながら彼女は案外元気そうだった。
ご主人が私をチラリとみた。

私はあいさつの言葉をかけたが…、彼は横を向いてしまった。

以前の彼ではなかった。

私はこころが痛んだ。

しかし、二人の受けたこころの傷に比べれば…。

重い気持ちで、去ってゆく車椅子を見送った。

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posted by かもめ at 16:43| ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | エッセイ・日々の雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私の母も脳梗塞で一昨年倒れ、その後ずっと病院にいます。おしゃべりが大好きな母が、話せなくなってしまいました。私は遠距離ということもあり、年数回、ようすを見に行くのがやっとです。
本人も周りも切ないですね。
Posted by nedwriter at 2006年03月20日 14:27
そうですか…。私の父も定年の1年前に脳梗塞で倒れてしまい、一時会話が大変だったときがありました。幸い、ほとんど回復し80歳の今でも元気です。母は(育ての母)腎臓を壊して54歳で亡くなりました。そうしたことも今の仕事のひとつの動機になっています。
Posted by かもめ at 2006年03月20日 17:20
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