1年間、老人病院

そこはいわゆる老人ホームなどと異なり、『病院』という名がつくように心身に病気を抱えている高齢者の方々が入院されていました。
4階建ての病院は上の階にゆくほど、重症患者が収容されていました。
初めは3階に配置されましたが、慣れた頃に4階に勤務変更。
そこは閉鎖病棟で、それだけ認知症や精神疾患を抱える患者が多く、毎日いろんなことが起きていました。
そこで働く古参のヘルパーがこんなことを耳打ちしたのです。
「ここの患者は、もう生きてここからは出られない。」
4階と3階を行ったり来たりは出来ても、全快して退院していった人はいないのだと…。
彼らにとってここは 『終の棲家』 だったのです。
この病棟で働きだしてまず感じたのが、ほとんど見舞いの方が来ない、ということでした。
身寄りが無かったり、あってもなかば見捨てられた…、そんな境遇の方が多かったのだと思います。
仕事の内容はオムツ交換、体の清拭、食事介助、その他雑用が沢山ありましたが、慣れてしまえばそんなにツライ仕事とは思いませんでした。
ただ、イヤだったのがひとつだけありました。
夜中に霊安室前の長い廊下を、オムツを載せた台車を押して往復する作業。
これは本当に嫌でしたネ。
非常灯のみの暗い廊下に線香の匂いが漂っていたりすると、もう心臓はバクバクものでした。

実はかもめは大変な恐がり屋。自慢じゃないけど、ハンパじゃありません。
TVで怪談映画の予告編やるでしょ、あれでもうダメ、鳥肌が起きてしまいます!
霊安室前の廊下を通る時の恐怖におののく私の姿が眼に浮かぶようです。(笑)
そんな私にとんでもない事件が…。
ある夜、入院患者が勤務中に亡くなり、看護師から遺体の処置を一緒に手伝うように言われたのです。(エーッ!!)
完全に腰が引けてしまいました。まさかこんなことまでさせられるなんて…。
でも仕事ですから仕方ありません、……覚悟を決めてやりました。
『おくりびと』を観た後ならもう少し前向きに取り組む気になったでしょうが…。(笑)
そのとき看護師が持ってきたのが 『エンジェルセット』 と書かれた白い箱。
ナースステーションの片隅に置いてあるのは知っていましたが、開けてみたことはありませんでした。
蓋を取ると、中には化粧品や爪切り、クシや髭剃りなどが見えます。
(なるほど、そのための道具が入っていたのか…。)
最初は恐る恐るでしたが、看護師さんに教わりながら無我夢中でやりました。
体をきれいに拭き、爪を切り、綿を詰めて、白装束を着せ、最後に髪を梳かして薄化粧を施したあと、霊安室まで運んだのです。
亡くなられたのは70代後半の女性で、認知症がかなり進行し、いろいろ手のかかる方でしたが、髪を整え、薄化粧をしたその顔は昨日までの彼女とは別人のような顔になり、妙なうれしさと温かい思いが湧き上がってきたこと覚えています。
人間、一線を越えると強くなるもんですね。
それ以来、夜の霊安室が平気になりました。

トイレの花子さんは相変わらず観たいとは思いませんが…。(笑)
映画『おくりびと』を観て、あの夜の出来事をまざまざと思い出したのでした。
今となってはいい経験をさせてもらったと感謝しています。^^)
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いろいろな経験をされているのですね。
人は必ず最後を迎えるし、
必ず老いと向き合わなければならない
奇しくも今日は、ある患者様の来店を受けて
しみじみと思っていたところでした
本当にそうですね。経験が人を強くしていくのですね。
死体というのは息をしていないだけなのに
妙に余所余所しくて、、、、
お通夜や葬儀での対面は、奇妙な緊張感を伴ったりしていました。
老人病院は悲しみがいっぱいですね。
かもめさんにとっては忘れられない想い出となりましたね。
学生時代は生活のためにいろんなバイトをしましたが、あの経験は忘れられません。
旅立つときは、できることなら自宅で家族に看取られていきたいなぁ。
そう心から思いました。
みんな、そう願っているでしょうけど…。^^)
ひと口に認知症といってもさまざまなケース、パターンがあることを知りました。
毎日がまるでドラマの世界にいるかのようでしたね。
日記をつけてたらきっと本が1冊かけたでしょうが、なにせ記憶力の低下が顕著なもんで…。(笑)
コメントいただき有り難うございました・・僕もマイペースで頑張りながら?こうしんしたいとおもいます・・風邪を引かないようにして下さいね。
この数日、朝の冷え込みがきつくなってきました。
風邪ひかないように、でんさんに教わった鼻うがいをしていますよ。
お互いにマイペースで行きましょうね。^^)