2008年09月15日

里帰り(後編)

前編を読む 

翌日は打って変わって朝から大雨。雨
ホテルの窓から雨の日本海を眺めながら、去年の京都旅行以来久しぶりに会う父のことを考えていた。 
入居しているグループホームで、またいろいろ問題を起こしていたのだ。


数年前にスタッフの胸ぐらをつかんでトラブルを起こした父だったが、(← 父の入院)なんと今回は相手を殴ってしまったため警察沙汰になってしまったらしい。がく〜(落胆した顔)
日頃から不穏な言動が目立ち、わがままでいったんキレると自分をコントロールできない状態になるため、施設ではかなり手を焼いていたようだ。
精神病院に強制入院させられる一歩手前までいったが、薬を服用させて少し落ち着いたので当面様子を見てみようということになった。
弟からそれを聞いたとき、安堵の気持ちとともに少し不安を抱いた。
(どんな薬なんだろう、それは…。)


鍼灸学校の学生時代、老人病院で夜勤のアルバイトをしていたことがあった。
仕事の内容はおむつ交換や体の清拭、食事の介助などだった。
そこは閉鎖病棟で、スタッフは全員鍵を持たされた。
高齢者が多く、認知症患者や精神的に不安定な患者もかなりいたため、さまざまな問題行動が毎日のように起きていた。
要注意人物は、手足の束帯をせざるを得ないこともあった。

当然、精神安定剤などの中枢神経系の薬がたくさん使われていた。飲みたがらない人には食事に混ぜて服用させた。
脳に作用する薬というのは劇的な効果があるものです。
そうした薬を飲まされ続けていると、入棟時、あれほど騒いでいた患者が別人のようにおとなしくなってしまうのです。
一日中ボーッと生気のない視線をただよわせる患者、脚がふらついて1人では歩けなくなる人、声をかけても反応が鈍くなり、トロトロと眠ってばかりの老人…。
そうした薬の怖さを目の当たりにする毎日に、重い気持ちを抱えながら仕事をしていた。


弟から病院に入れることになるかもしれないと聞いたとき、病棟の光景がよみがえってきた。
だから薬で様子を見ることになったと聞いたときは、心底ホッとした部分と、どんな薬を使っているのだろう、という思いが交錯したのだ。
久しぶりに会う父が、あの老人病院の虚ろな表情の患者たちと重なって、窓の外の雨にもやもやと浮かび上がっては流れ去ってゆく。


生来の勝気な性格に加え、認知症が始まり、耳が遠くなったために周囲とのコミュニケーションがうまく取れなくなってきているのだろう。
しきりに自宅に帰りたがり、スタッフを困らせることが増えてきたという。
実際、弟が仕事で不在中にもスタッフが根負けして幾度か自宅に連れてきてくれていた。
すると今度は帰りたがらない。
グループホームを出て、家で暮らしたいのだろうが、ひとりで日中生活させるのは危険。
火事を起こしたら取り返しがつかない。
いつまた近所に「おまぇんちのカラスが畑を荒らした!」などと怒鳴り込まないとも限らない。(前科あり。笑)
かといって弟が仕事をやめて付きっきりで面倒を見るわけにもいかない。
それに彼は心臓に持病を抱えている。
兄や私のところで面倒を見ることは環境が大きく変わることになり、本人にはストレスになるだろう。
むしろ病状が悪化する危険性が高いし、なにより受け入れ先がすぐには見つからない。


新潟から車で帰ってきた兄が施設に寄って父を連れてきた頃には雨もあがった。
会ってみると心配していたほどの状況ではなかった。
表情は以前より乏しく、口数が少なく、耳がさらに遠くなっていたが、食欲もあり足元もまぁまぁしっかりしていて杖なしで歩ける状態だった。
飲んでいる薬は、やはり精神安定剤のトランキライザーだった。


夕食や風呂の準備をしている間に父の姿が見えなくなった。
畑に行ってみたが、いたのはカラスだけ。
首輪をつけていないから飼われているカラスではなさそう。(笑)
離れの小屋の中にも見あたらない。不安に駆られて玄関前の長い石段を下りて道路に出てみると、……居た。
ブロック塀の横にしゃがんみ込んで草をむしっている。
声をかけると「草がなぁ〜。」そういってニカッと笑った。わーい(嬉しい顔)
ときに周囲も手に負えなくなる父、家の周りの草をむしる父、墓参りで一心に手を合わせる父、…… ぜんぶ同じ父。


自分が父の立場だったら、どんなふうに暮らすのが一番幸せだろうか。
強制的に病院に入れられて薬でコントロールされて、自分が自分でなくなっていくような人生だけはイヤ。
週一回がダメなら、月一回でもいい、子供たちが迎えに来てくれて一緒に時間を過ごせたら、それがなにより嬉しい。
海の見える丘の上のグループホームで余生を過ごせる、それだけでも幸せ。
息子がときどきでも自宅に連れて帰ってくれ、好物を食べさせてくれる。
外に出たければ外に出られ、散歩をして道の草花を楽しめる。
そうした生活の基盤を少しの薬が維持してくれるのなら、父の幸せのために必要なものなのだ、そう理解し、薬へのわだかまりは消えた。
今の自分には弟の愚痴を聞いてやることぐらいしかできないが、できることなら平穏な日々が続いていってほしい。^^)

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posted by かもめ at 10:12| ☔| Comment(9) | TrackBack(0) | エッセイ・日々の雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私の知人が舅さんを精神病院に入れた時の事です。
頑強な体の持ち主で傲慢な舅さんを、家庭内暴力が凄まじい上に、
痴呆も出てきたという事で精神病院に入れてしまったんです。
邪魔者を片付けるという感じで、家族は厄介払いをしたんです。
後日、面会に行くと、生気の無い顔で車いすに乗せられていたそうです。
目はウツロ、食事はチューブ とあまりの変わりように驚き、老健に替えたそうです。
人権など関係なく、薬で幾らでも扱いやすいように変えてしまうのですね。
大量の筋弛緩剤と精神安定剤で動けなくして、
僅か1ヶ月で廃人のようにしてしまう。。。。
当たり前のように何処でも行われているんですね。

海の見える丘の上のグループホームで余生を過ごせるお父様。
優しいお子達に見守られてお幸せだと思いますよ。
Posted by 絵夢 at 2008年09月23日 19:32
思わず、読み込んでしまいました
かもめさんのお話も、絵夢さんのお話も、
とても心に迫るものがあります
お客様からもよく聞きますし、真剣に考えなければならないことですね
かもめさん、頑張ってくださいね。

Posted by サト at 2008年09月24日 01:57
絵夢さんへ
自分の老後を考える意味でも良い機会になりました。
老人病院みたいなところには入れないでくれと遺言状でも書いておこうかな。(爆)


サトさんへ
父が入っている施設は眼下に日本海が広がり、ホントにいい景色なんです。
自分も将来入るんだったら、あんなところがいいなぁ、なんて思ってしまいます。(笑)
Posted by かもめ at 2008年09月24日 21:54
読まさせていただきました。
応援ポチッ!!!
Posted by サトシ at 2008年09月27日 17:34
サトシさんへ
はじめまして!
応援ありがとうございます。
サトシさんのブログも訪問させていただきました。
株の専門サイトなんですね。
私には無縁のようです。(笑)
これからも時々お越しください。^^)
Posted by かもめ at 2008年09月29日 14:22
いろいろ、ありますね。
私も、昨日、父親が入院したという知らせがありました。夏に会った時は、元気だったのですが。すぐに行くほどではないようなので、ホッとしましたが、田舎からの電話には、毎回びくっとします。
Posted by medwriter at 2008年10月07日 10:42
medwriterさんへ
大した事なくてよかったですね。
我々の年代の親は年が年だけに、電話が来るたびにドキッとしちゃいます、ホントに。^^)
Posted by かもめ at 2008年10月08日 07:51
初めまして、kuniiと申します。

私も、鍼灸師です。先生のBRGを今日の朝、偶然みつけました。

私は、免許を取得して丁度20年です。
あるところに所属して鍼灸をやっています。

BRGを拝見させて頂いたのは、やはり繁盛させる事を考えていたためです。

また、おじゃまさせていただきます。

いま、仕事の合間にメッセージ書いています。

年齢は、50ですが自分で言うのもおかしいですが若い気でおります。

宜しくお願いします。


Posted by 国井 at 2008年10月08日 10:42
国井さんへ

はじめまして。
こちらこそよろしくお願いします。
私は54ですが免許取得は16年前ですので鍼灸師としては国井さんの方が先輩です。^^)
ときどきのぞきにお越しください。
Posted by かもめ at 2008年10月09日 08:09
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